運動と幸せのすごい法則について

スタンフォード大学で博士号（健康心理学）を取得し、著書に28ヶ国で刊行され日本でも累計80万部のベストセラーとなった「スタンフォードの自分を変える教室」の著書、K.マクゴニル氏は言う。

「運動は人間を幸せにする」

私たちは体を動かすことによって、何万年も前から人類が生き残るために役立ってきた様々な本能を活用することができる。

最近日本では行われた調査では、約4割の人が在宅勤務のせいで太った太ったと答えているそうです。 だらだら仕事を続けることで脳が疲れてストレスもたまります。ストレスや不安、孤独を感じる人が増えているといいます。

そんな人こそ、まずは3分間運動してみてください。それだけで、高揚感をもたらす脳内化学物質であるドーパミンとアドレナリンが分泌されます。 するとより楽天的になり、集中力が高まり、エネルギーが湧いてきてストレスが減少します。

乳酸は不安を緩和させる

20分以上の運動をすると「幸福ホルモン」と呼ばれるエンドルフィンや内因性カンナビノイドが分泌され、さらに高揚感が増します。

さらに筋肉を使うと筋肉がエネルギーを消費します。 すると代謝副産物である乳酸が作られます。

多くの人はそれが筋肉痛を起こすと勘違いしていますが、実際は脳にたどり着いて不安を緩和する分子として機能します。不安が減少してよりレジリエンスが高まるのです。自分の筋肉が脳にとっては薬局のようになっているのです。

ですから、私は不安を感じている人に自分がコミットできる20分という時間を見つけるようにアドバイスしています。 しかも、その間にやる運動はウオーキング、ウエイトリフティング、ヨガ、ダンシング、サイクリングなど心拍数を少し上げることができれば何でもよいのです。

ストレスに強くなる

より長期的な効果は、定期的に運動すると脳の構造に物理的な変化をもたらし、ストレスに対してより強くなれることです。 時間をかけてこれまでとは異なる脳を作り上げるという感覚です。

多くの人は筋肉については、定期的に運動すると自分の筋肉が変化することは知っていますが、脳もそれと同じように、より強くなるように変化するのです。

三日坊主から抜け出す方法

せっかく運動のメリットを理解しても、習慣づけられないと相談をうけることがあります。 私がすすめているのは早朝にやることです。「あとでやればいい」と言い続けるよりも、早朝のほうが実行できる可能性が高いからです。

運動はマインドセット（思考傾向）とムード（気分）にパワフルな効果をもたらすことがわかっているので、早朝にその効果を得ると、運動の後の高揚感を味わえる可能性が高くなります。 時には運動がつらいとか不快だと思っても、そのあとに自分の目標を達成する能力に自信を感じるのです。

それがさらに人生でもっと重要な目標に向かって頑張りたいと思う気持ちを強くします。そういうことに気づくと三日坊主になりにくいでしょう。

習慣化には時間がかかる

習慣を築きたい人に言いたいことは、身体や脳が運動が楽しいものであると認識するには時間がかかることを理解しなければならないということです。運動の経験がいい方向に進むには約6週間かかりというリサーチもあります。

運動を継続するための助けとなる２つの方法

音楽

一つは音楽を効きながら運動することです。人間は本能として音楽やリズムが聞こえると、体が勝手に動いてしまうのです。 音楽のリズムに合わせて体を動かすと運動が楽しいものになり、より多くのエネルギーを得ることができます。

さらに音楽には強壮剤的な効果があります。人間が体の限界を超えて力を発揮するのに役立ちます。 入念な対照実験においても、音楽をかけた場合、ボート選手や短距離走者や水泳選手たちが、自身のタイムを縮めることができました。

　　　　 　　　　

自然

もう一つは「グリーン・エクササイズ」と呼ばれる、自然の中で行う運動です。 自然に囲まれて体を動かすと瞑想と似たような効果があるのです。 すぐに脳を今の瞬間に集中させて、ストレスを減らし、自動的にマインドフルネスの状態にしてくれ、自分の気分をリセットする格別の方法であると考えられています。

雑誌、プレジデントより引用

病気リスク低下にも、寝たきり防止にも運動が有効な理由が判明。

立命館大学スポーツ健康科学部　家光教授

肥満や糖尿病といった生活習慣病の対策にも、うつや認知症の予防にも、元気に長生きするにも、健康のためにはやはり運動がいいことが、近年科学的にも明らかになってきた。

「体を動かすと、筋肉のポンプ作用で血流が良くなり、心肺機能が高まる。エネルギーを消費し、老廃物も排出される。

でも運動のメリットはそれだけではない。今注目を集めているのは筋肉から出るマイオカインの働き」と運動と筋肉の機能について研究を行う立命館大学スポーツ健康科学部の家光教授は語る。

マイオカインとは

「マイオカインは骨格筋の収縮に伴い分泌されるさまざまな生理活性物質。脳や肝臓、血管、脂肪細胞など、全身の臓器にマイオカインが影響を与えることがわかっている。性ホルモンのエストロゲンやテストステロンの一部も、マイオカインとして筋肉から分泌される。」

なかには、うつ症状を抑えたり、脂肪を燃えやすくしたり、がん細胞の増殖よくせいにも関連するものがあるという。

「我々が研究しているイリシン（アイリシン）やアペリンというマイオカインは、血管から出る一酸化窒素（NO）の量を増やし、動脈硬化のリスクを低下させる効果があることがわかっています。」

　　　

血流を増加させる一酸化窒素（NO）

NOは血管から分泌される血管拡張物質で、血管を柔らかくすることで、血流を増加させる効果がある。実際に、運動することでイリシンやアペリン、NOの量が増えると、血管の柔軟性も高まったという。

女性にうれしいはたらきも。「イリシンには脂肪をため込む白色脂肪細胞を、エネルギー消費する褐色脂肪細胞のように変える「褐色化する」働きもあるので、運動するほどやせやすい体になるともいえる」

ただし、運動でこれらのマイオカインが増えるのは、マイオカインの産生が低下した中高年以降の人だけだという。 「十分にマイオカイン分泌がある若い人では運動しても分泌量の増加は見られなかった。老化によって低下した筋肉の機能を、運動が取り戻してくれるのだと考えてはいいのでは」と家光教授。

なお、マイオカインはすべてが善玉というわけではなく、なかには老化を進める悪玉マイオカインもあるようだ。

「年をとってくると、筋肉の量が十分あるように見えて、中がスカスカのこともある。筋肉中に脂肪が取り込んで霜降り状になる「脂肪筋」や、筋肉の繊維化などがそうだ。こういった筋肉の質の低下にC1q（シーワンキュー）というマイオカインが関係する可能性が高い」と家光教授。

　　　

加齢とともに増えるC1qとは

C1qとは、年をとるにつれて増える、動脈硬化との関連も疑われているマイオカインだ。 「筋肉が線維化するのは、年をとるにつれて筋芽細胞が減少し、線維芽細胞が増殖するから。そのコントロールにC1qが関与している可能性が高い。」

動物を使った研究で、C1qの増加が筋肉の線維化を進めることが確認されているという。 この、老化物質ともいえるやっかいなマイオカインも、実は運動で減らすことができるという。

「我々の研究では、運動でのC1qの減りが大きいほど、筋トレの効果が高まった。つまり、運動すればするほど筋肉が若返り、老けにくくなるというわけです。」

歩くなら大股早歩き。ストレッチは下半身に。

この1年、外出の機会が減り、テレワークなどで運動量が大幅に減ったというひとも多いと思うが、座りっぱなしだと善玉マイオカインが出ず、脂肪も燃えないし、骨ももろくなってしまう。今のような歩かない生活を続けると、５～１０年程で老化現象が早まるかもしれない。

では、どんな運動を行えばいいのか。「マイオカインを出すにはとにかく身体を動かすこと。大きい筋肉を動かすほど出るマイオカインも多くなるので、歩くのであれば大股で。地面を蹴るときに太ももの裏側の大きな筋肉を使うので、筋肉量を増やす効果も期待できる」

また、早く歩けば、その分心肺機能が高まり、エネルギー消費も増えるので糖尿病対策にもいい。 「筋トレするなら、疲労回復のためにも週２～３回程度に。ストレッチは血流がアップするで、運動の前に下半身の大きな筋肉だけでもやっておくといい」とアドバイスする。

雑誌、日経ヘルスより引用