帝京平成大学 特任教授 児玉浩子氏
東北大学名誉教授 駒井三千夫氏
亜鉛の不足と鉄不足の関係
亜鉛の不足といえば、味覚障害との関連が有名だ。しかし鉄不足と同時に貧血の原因になることをご存じだろうか。
鉄欠乏性貧血は赤血球を構成するヘモグロビンの材料である鉄が欠乏することで起こるが、亜鉛欠乏性貧血は赤血球が正常に作られないために起こる。
「亜鉛はDNAの複製に必要で、不足すると細胞分裂が正常に行われなくなる。造血時に不足すると、赤芽急が赤血球に成熟しないため貧血になる。
鉄欠乏と亜鉛欠乏は合併している場合が多いが、亜鉛欠乏症貧血は医療者にもまだ十分理解されていないため見逃されがち。貧血で鉄剤を飲んでも改善しない場合、亜鉛不足を疑ってみたほうがいい」と帝京平成大学 特任教授 児玉氏は話す。
亜鉛不足での不調
実は貧血や味覚障害以外にも、亜鉛不足は肌荒れや抜け毛などの美容面、また、骨粗しょう症、免疫機能の低下、男性不妊など多様な不調に関係している。
これは亜鉛には「たんぱく質が作られるときに不可欠な酵素を活性化させる働きがあるから」と児玉氏はいう。
亜鉛がないと働かない酵素は体内に300種類以上もあるという。
例えば、近年、その重要性が再認識され、美容やボディメイクのために意識して取る人が増える「たんぱく質」。
だが、いくらたんぱく質を一生懸命とっても、亜鉛不足だと筋肉の合成や肌のターンオーバーがスムーズに行われず、努力は無駄になりかねない。
「たんぱく質をとる時は亜鉛もセット」でを心がけたい。
女性の亜鉛不足
亜鉛は細胞分裂やたんぱく合成に必須なので、胎児や赤ちゃんの成長にも不可欠だ。
「妊婦は鉄が不足しやすいことが知られてるが、亜鉛も同様に不足している。将来妊娠を望む人や妊婦、授乳婦は、赤ちゃんのためにも、鉄とともに亜鉛の摂取も意識してほしい」と児玉氏はいう。
これだけ重要な働きを持つ亜鉛。成人女性の摂取推奨量は1日8mgだが、20~40代女性では60~70%の人で亜鉛が不足している。
「国別に亜鉛欠乏の頻度を調べた研究では、日本人の15~25%が亜鉛欠乏状態だった。こんなに不足しているのは先進国では日本だけ」と児玉氏はいう。
また、「足裏の衝撃で赤血球が壊れたり、汗で排出量が増えるため、スポーツをする人も不足しがち。気になる症状がある人は病院で「亜鉛を測りたい」と申し出てほしい。保険適用で500円程度で検査できる。血清亜鉛値が80㎍/dL未満なら治療の対象になる」と児玉氏はいう。
こんな自覚がある人は亜鉛が不足しているかも
貧血で鉄剤を飲んだがよくならない
湿疹がなかなか治らない
抜け毛がきになる
口内炎がよくできる
味覚がにぶくなった
食欲が低下した
風邪をひきやすい
肉や穀類をしっかりとり、加工食品は頻度を減らす
「国民健康・栄養調査」(平成30年)によると、成人は平均して0.4mgの亜鉛が足りていない。では、亜鉛を補うには何でとるのがいいのか。
亜鉛といえば牡蠣が有名だが、頻繁に取れる食材とはいえない。
日常的にとる食材として、肉、魚、卵などに多いこと、また大豆、ナッツ、米などの穀物もいい供給源であることに着目したい。
「日本人は亜鉛の3割弱を穀物から摂取しているというデータがある。主食を極端に制限するような食事では亜鉛不足につながりやすい」と東北大学名誉教授の駒井氏はいう。
最近はやりの糖質制限ダイエットなどは要注意。亜鉛は動物性食材に多く含まれるため、「菜食主義の人も欠乏しやすい」
また、「加工食品に使われる添加物の中には、亜鉛の吸収を阻害する作用を持つ「亜鉛キレート剤」を含むものがある。亜鉛キレート剤の取りすぎは、亜鉛欠乏の一因になる。
加工食品は忙しいときにはうまく活用してほしいが、同じものを食べ続けると、栄養が偏ったり食品添加物の多食に陥る可能性が高まる」と駒井氏はいう。
亜鉛を体外に出す亜鉛キレート剤について
「食品添加物には亜鉛と結合するキレート剤を含むものがある。キレート剤とへ結合した亜鉛は腸から吸収されずに便中に排出される」
「亜鉛には体に有害な重金属を解毒する機能もある。亜鉛不足で重金属が処理できない状態になると、不定愁訴の原因になるケースもある」と駒井氏はいう。
代表的な食品添加物のキレート剤
ポリリン酸ナトリウム
ポリリン酸カリウム
エチレンジアミン四酢酸ナトリウム(EDTA-Na)
カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Ma)
亜鉛を多く含む主な食材
牡蠣・5粒(60g) | 7.9mg |
牛肩肉(赤肉、生)1食分(70g) | 4.0mg |
ホタテ貝(生)3個(60g) | 1.6mg |
めし(玄米)茶碗1杯(150g) | 1.2mg |
納豆 1パック(40g) | 0.8mg |
卵黄 1個(16g) | 0.7mg |
カシューナッツ(フライ)10粒(15g) | 0.8mg |
ピュアココア 大さじ一杯(6g) | 0.4mg |
「納豆やココアは調理なしでとれるので朝食にお勧め。玄米や大豆にはキレート作用があるフィチン酸が含まれるが、特定の食品摂取に偏らなければ、さほど心配する必要はない」と駒井氏はいう。