東京医科大学 特任教授 羽生治夫氏
国立病院機構 東京医療センター 総合内科医長 本田美和子氏
認知症のサイン
認知症とは、何らかの病気によって脳の神経細胞が傷つき死滅するために、「記憶障害」などの症状が現れて日常生活に支障をきたす状態のことです。
加齢による物忘れと異なり、認知症による記憶障害では、新しい記憶がすっぽり抜け落ち、体験したことそのものを忘れてしまいます。
例えば、食事をしたこと自体を覚えておらず、わすれているという自覚もありません。最近の出来事から忘れてしまうため、同じことを周囲の人に何度も繰り返し聞いてしまうなどして、日常生活に支障をきたします。
認知症の原因となる病気はさまざまで、原因によって認知症のタイプも異なります。
最も多いタイプはアルツハイマー型認知症で、前途のような記憶障害や、生活動作の障害などが現れます。
また、記憶があいまいなときには、患者さんは取り繕ってごまかそうとすることもあります。
知っておきたい認知症の症状
認知症の症状は、脳の神経細胞の死滅によって起こる「中核症状」と、中核症状に関連して起こる「行動・心理症状」に大きく分かれます。
中核症状・・・・記憶障害、判断力の低下、言葉がわからなくなる、時間や自分がいる場所がわからなくなるなどが起きます。
行動・心理症状・・・・妄想、暴言、暴力、意識の低下、いらだち感、不眠、歩き回るなどが起こります。
これらの症状を知っておくとおくと、認知症の早期発見につながりやすくなります。
例えば「財布を盗まれたと身近な人を疑う」「以前は興味があったことに興味を示さなくなる」「怒りっぽくなった」など、本人や周りの人が「おかしい」と感じた場合は、医師に相談することが大切です。
リスクを減らすために
アルツハイマー型認知症を発症する原因の1つとして考えられるのが、「アミロイドベータ」というたんぱく質の一種です。脳の神経細胞の外側にアミロイドベータが蓄積すると「老人班」というシミのようなものができます。
また、脳にアミロイドベータが溜まることによって「リン酸化タウ」というゴミのような物質が、神経細胞の中に蓄積するようになります。 このような変化により、脳が萎縮してアルツハイマー型認知症が発生すると考えられています。
アミロイドベータをためないために
適切な睡眠をとる 1日7時間を目安に睡眠をとり、規則正しい生活を心がけるとよいと考えられます。
血糖値を適切にコントロールする 日本人における疫学調査では、糖尿病のある人は、ない人に比べアルツハイマー型認知症の発症率が約2倍高いことが報告されています。 また、血糖値のコントロールがよくないほど発症率が高くなります。
生きがいや活動的な生活が重要
ふだんから活動的に生活している人では、脳の萎縮が起こっていても、症状が軽かったり、アルツハイマー型認知症を発症していないケースがあることが明らかになっています。
人が一生のうちに使う脳の機能は一部で、残りの大部分の機能は使われずに眠ったままの状態になっています。
脳が萎縮して一部の機能が失われたとしても、使われていない脳の機能が活性化すれば、認知機能の低下を補うことができると考えられています。 これを「認知予備能」といいます。
使われていない脳の機能を活性化するためには、ふだんから脳をよくつかうことや、生きがいをもち、活動的な生活をすることが大切です。
積極的に体を動かしたり、人とよく話をしたりするだけでもよいでしょう。 長く続けられる趣味があると、脳をよく使うことになるのと同時に、生きがいも感じやすくなります。
お勧めの活動
下記の活動は認知症予防の効果が高いと考えられています。
カッコ内の数値は、その活動をほとんどしない場合と、頻繁にしている場合を比べて、認知症の発生率がどの程度低くなったかを示した数字である。 数値が低い活動ほど、認知症の予防効果がより高い可能性がある。
体を動かす活動
ダンス(0.2) 散歩(0.7) 水泳(0.7) 子守り(0.8) 家事(0.9) 脳を使う活動
ボードゲーム(囲碁、将棋など)(0.3) 楽器演奏(0.3) クロスワード(0.6) 読書(0.7)
雑誌きょうの健康より引用
睡眠6時間以下で認知症リスクが高くなる
50歳や60歳で睡眠時間が短いと、認知症の発症リスクが高くなる可能性が、大規模な英国の研究で明らかになった。
50歳の時点で睡眠時間のデーターがあった7959人が対象平均24.6年の追跡期間中521人が認知症と診断された。
質問票で50歳、60歳、70歳時点での睡眠時間を尋ね、「6時間以下」「7時間」「8時間以上」に分けた。
認知症発病率は、調査時の年齢にかかわらず、7時間群で最も低かった。
50歳時点の睡眠時間が6時間以下の群では、7時間の群に比べて認知症になるリスクは1.22倍、60歳時点で6時間以下の群は1.37倍と、有意に発病リスクが高かった。
70歳時点でも統計学的に有意ではないが、高い傾向であった。 8時間以上の群ではリスクとの関係はなかった。
睡眠不足は、アルツハイマー型認知症の原因とされるβアミロイドの蓄積につながるとされている。
雑誌、日経ヘルスより引用
いびきが認知症発病リスクを高くする
認知症のない298人の女性(平均年齢82.3歳)を対象に、睡眠時無呼吸症候群と軽度認知障害または認知症リスクの関連性をみた。
追跡開始から4年後の認知症、軽度認知障害発病リスクは、睡眠時無呼吸症候群(1時間あたりの無呼吸低呼吸が15回以上の中等症)の人は、15回未満の人と比べて1.71倍、睡眠時間中、無呼吸・低呼吸の総時間が7%以上を占める重症の人はそうでない人と比べて2.04倍。
ただし入眠後の覚醒や睡眠時間は、軽度認知障害のリスクと関連していなかった。
(データ:JAMA2011 Aug 10;306(6):613-9)雑誌、日経ヘルスより引用
ブログ作者の感想
アンケートでも高齢者がなりたくない病気として認知症が多いみたいです。楽しかった記憶など忘れることはつらいですからね。糖尿病のある人は、ない人に比べアルツハイマー型認知症の発症率が約2倍高いことが報告されていることも学べました。日々の生活の中で様々な予防を心がけることが大切ですね。