国立長寿医療センター 副医院長 吉田正貴
夜間頻尿の新対策
加齢により、「ある程度仕方のない症状」とされてきた夜間頻尿。
ところが、高齢者は夜間にトイレの回数が増えれば転倒骨折や睡眠障害、うつなどのリスクが増え、死亡率が高くなることが問題に。
近年、さまざまな病気に関係するという論文も発表されるなど、ここ10年ほどで研究が進み、新ガイドラインが発表されました。
新ガイドライン
ガイドラインの対策を実践して、夜間のおしっこ4~5回が0回に改善した方もいます。
医師のすすめで、新ガイドラインで推奨されている対策法を始めた。1ヶ月後には、夜23時から朝6時まで、一度もトイレに行かずにぐっすり眠れるようになった方も。
1日の体内の水分量の変化を調査。夜間頻尿の症状に悩む人とそうでない人に、まったく同じ量の水分をとってもらい、おしっこの量を測定。1日密着したら、ある事実が見えてきました。
「ふくらはぎ」にたまる日中の水分
日中の水分がたまっていたのは、なんと「ふくらはぎ」 ふくらはぎは第2のぼうこうだった。
体の中で、おしっこうをためておく場所といえば、ぼうこうです。 夜中におしっこにいきたくなるということは、寝る前のぼうこうに水分が残ってしまっているからなのでしょうか。
でも、先の実験で、寝る前の2人のぼうこうをエコーで見てみると、どちらもほぼ空っぽ状態でした。
ぼうこうを空にしてから寝ているのに、なぜ夜間頻尿は起こるのでしょうか?水分はどこからきたのでしょうか?
その答えはずばり、「ふくらはぎ」。被験者に協力してもらい、体の部位ごとの水分量の変化も測定したところ、腕や胴はそれほど変化がないのに対し、足だけは時間の経過とともにどんどん水が溜まっていきます。
ふくらはぎに水分がたまる仕組み
全身をめぐる血液は心臓やふくらはぎの筋肉などがポンプの役割をして循環させています。
水を飲むと、胃や腸で吸収された水分がいったん血管の中に入ります。このとき体は全身の水分の量を一定に保とうとするため、増えた分の水分をおしっこにかえて、ぼうこうにためます。
ところが、おもに加齢などにより心臓やふくらはぎなどの筋肉が衰え、ポンプ機能が弱まると、血液を下から押し上げる力が足りなくなります。
すると血管から水分があふれ出してたまるため、「ふくらはぎ」が”第2のぼうこう”となっていたのです。
その状態で、夜、横になると、重力の影響を受けなくなった水分が再び血管に戻るため、増えた水分を減らそうとしておしっこが作られてしまうのです。
どうやって水分をためこんでいるの
ぼうこうのような臓器を持たないふくらはぎが、どうやって水分をためこんでいるのでしょうか?
じつは皮膚と骨の間にある「間質」と呼ばれる部分が、タンクのような働きをしていたのです。
間質とは、細胞と細胞をつなぐ結合組織のこと。いわゆる緩衝材のような役割をしている部分です。
実際に被験者のふくらはぎの太さを測ってみると、朝と比べて寝る前には、左右ともに2㎝以上も太くなっていたのです。
こうした足のむくみは軽いものであれば1度は経験がある人もいるのではないでしょうか。 これがひどくなると痛みをともない、日常生活に支障が出る場合もあります。
排尿記録でセルフチェック
足のむくみの自覚症状がない人でも、次の「排尿記録」をつけることで、自分の夜間頻尿が「ふくらはぎタイプ」かどうか、セルフチェックできます。
この排尿記録は、病院を受診したときに医師に指導されるものと同じ方法なので、受信する場合に持っていくと診療回数を減らすことができておすすめです。
ただし、せっかく記録しても中途半端では診断に使えないので、できるだけ正確な記録を心がけましょう。
さらに余裕があれば、コーヒーや水、アルコールといった、飲んだ水分の種類と量、飲んだ時間も一緒に記録していくと、より診断に役立ちます。
自分の夜間頻尿が「ふくらはぎタイプ」かを見分ける排尿記録の付け方
用意するもの:計量カップ(500ml程度あれば十分)
やり方:おしっこの量と出た時間を記録します。
➀朝起きて2番目のおしっこから翌朝までの量を足す
➁就寝後と翌朝1番目に出た量を足す。
➂ ➀の3分の1を計算する ➂よりも➁のほうが大きい場合、ふくらはぎに水分をため込んでる可能性が高い。
薬を使わない、3つの対策法
「ふくらはぎタイプ」の可能性が高かった人は、以下に紹介する3つの対策法が効果的かもしれません。
3つとも薬を使わず、患者さんが自分で実践する「行動療法」と呼ばれる治療法です。 いずれの方法も薬を使う治療と違って副作用が少なく、有効であることがわかってきました。
ただし、心臓病や糖尿病をはじめとする持病がある人にとっては、これらの対策を行うことでかえって体に負担をかけてしまう可能性があるため、試す前にまず、かかりつけの医師に相談してください。
対策1 夕方に「足上げ」を30分間
足の下にクッションなどのやわらかいものを敷いて、足を10~15㎝くらいの高さにします。 そのままの状態で横になり、30分間キープ。足を上げる高さは、30分間やっても負担を感じないくらいの無理のない範囲で行います。
ポイントは行う時間、お昼から夕方までの間がおすすめ。 あまり遅くなると、夜に出るおしっこの量がかえって多くなってしまうことがあります。
また、行うのが早すぎても効果が薄れることがあります。 足先に水分が多くたまるため、足先を一番高くするのが効果的です。 足が心臓よりも高い位置になればOK.
この方法を1ヶ月実践した被験者は、始めた当初は効果が感じられず、本当に効くのか半信半疑だったそうですが、2週間後に変化があったという。
それまでは確実に3回は行っていたという一晩のおしっこが、平均1.5回にまで減ったのです。
対策2 弾性ストッキングを履く
弾性ストッキングは、薬局などで、むくみ対策用として市販されています。 いろいろなタイプがありますが、夜間頻尿の対策に医師がすすめるのが、ハイソックスタイプ。
ひざまでの長さで、締め付ける面積が少なく履きやすいです。 朝起きて着用し、夕方まで履き続けます。
圧力が強すぎると感じる人は、最初は履く時間を短くしたり、少し大きめのサイズを選んで始めて見るといいでしょう。
対策3 減塩する
塩分をとると、喉が渇いて水分をとりやすくなります。 また、血圧が高くなると、ふくらはぎの毛細血管から水分がより漏れ出やすくなるため、なるべく減塩することが有効です。 とくに夕方以降の塩分のとりすぎは要注意です。
まずは1ヶ月!続けても効果が感じられない場合は専門医に相談を。
国立長寿医療センター 副医院長 吉田正貴に聞く
夜間頻尿の原因が別の病気である可能性も
尿の悩みの治療というと、どうしても排尿やぼうこうのことばかり考えがちですが、夜間頻尿の場合、それだけでは適切な治療法を見つけることが難しいのです。
夜間頻尿の原因は複雑で、例えば高血圧や心不全、循環器疾患、糖尿病、さらには睡眠障害といった病気が関係している可能性も考えられるためです。
ですから、その人がどんな疾患を持っているのか、どういう状況であるかを全身にわたって診る必要があるのです。
初版のガイドラインが2009年に出版されてから10年以上が経過し、こうした複雑さへの理解が深まり、研究も進んできました。
今回はとくに行動療法を重視し、全身のことを考えながら適切な治療法をみつけていこう、という構成のガイドラインになっています。
たとえば糖尿病では、末梢血管障害がある場合、知覚が鈍く、痛みや圧力を感じにくくなっているため、締め付けすぎている感覚がわからないことがあります。
すると血流障害が起きていても気づかずに着用し続けてしまうおそれがあります。
また、糖尿病の人でもともと血流障害がある場合には、ストッキングの着用で、足にできるかいようや、びらんといった皮膚の合併症が起きやすくなります。
心臓病の場合は、足をしめつけることで血管に水分が戻るため、昼間、体内を循環する血液の量が増えます。
すると心臓に負担がかかる場合が。それを防ぐためにも主治医と相談してからのほうが安心です。
また、睡眠時無呼吸症候群の人や利尿薬を飲んでいる人などは、ストッキングの着用よりも、病気の治療を優先するほうが夜間頻尿にも効果的なことが多くあります。
以上のような病気以外でも、血行障害や皮膚に湿疹のある人は着用しないほうが良い場合もあります。
ストッキングのパッケージなどに記載の注意事項を確認し、かかりつけの医師に相談してみてください。
病院に行った方が良い場合の見分け方
いちばんは本人が困っているかどうかです。
トイレの回数で目安をあげるなら、70歳以上の6~7割の人は、夜間に2回くらいまではトイレに行くというデータがあり、そこまで心配いりません。
ただ、2回起きても平気な人もいれば2回でもつらい人もいます。 夜眠れないというのはそれだけでも、うつになりやすい要素ですから、本人がつらいようなら、ぜひ受診してほしいです。
また、失禁や排尿困難などといったほかの症状がともなっている場合、病気が原因であることが多いため、受診をおすすめします。
「雑誌、ためしてガッテンより引用」
ブログ作者の感想
ふくらはぎに水分が溜まって、それが夜におしっことなり夜間頻尿を引き起こしている可能性があるなんて驚きました。ふくらはぎの筋力低下はこんなところにも影響があるですね。でも、簡単な足上げ、弾性ストッキングや減塩でセルフケアできるならばすぐにでも始められますね。
ふくらはぎ筋力UPに
減塩食