盲腸(虫垂炎)を切ると、大腸がんのリスクが2.1倍に!
「盲腸」の痛みの原因はじつは盲腸ではなかった!
盲腸と聞くと、きっと多くの人が「盲腸になっても切ってしまえば、済む話でしょ?」と思っているのではないでしょうか。
ところが、近年、海外から驚きの報告があった。じつは、手術で切除すると、大腸がんのリスクが2.1倍ほど高くなることがわかったというのです。
そもそも盲腸とは、病気の名前ではありません。
では、盲腸はどこにあって、どんな形をしている臓器なのでしょうか。
盲腸は大腸の一部で、小腸との境目にあります。
人間の盲腸は小さいですが、馬などの草食動物の盲腸は大きく、30リットル分もの消化物を入れることができます。
植物を消化する必要があるためであろうと考えられます。
では、私たちが「盲腸になった」というときの病気の正体とは?
人間の盲腸には、直径3~5ミリメートルほどの「虫垂」と呼ばれる細い袋のような形をした臓器がくっついています。
じつは、突然の激痛の原因になるのは、この虫垂。
虫垂にうみなどがたまって炎症が起きることで、激しい痛みが引き起こされます。
つまり、「盲腸になった」というときの正式な病名は「虫垂炎」なのです。
虫垂には腸内細菌に影響を及ぼす、大切な役割が!
虫垂の役割は、長い間はっきりと解明されておらず、「進化の過程で機能が失われた、むだなもの」と考えられてきました。
しかし最近の研究で、虫垂は大切な役割を担っていることが明らかになってきました。
というのも、虫垂の中にはたくさんの「免疫細胞」がいることがわかってきたのです。
大腸の中には、たくさんの腸内細菌が住んでいます。その数は100兆個を超え、「腸内フローラ(腸内のお花畑)」と呼ばれるほど。
この腸内細菌のバランスが崩れると、影響は体全体に広がり、がんや生活習慣病にも関係すると考えられています。
虫垂の免疫細胞は、この腸内フローラがよい状態を保ち、いい菌が住みやすい環境を作るための手助けをしている可能性があるとわかってきたのです。
こうした研究はまだスタートしたばかり。現在も虫垂が体にどのような影響を及ぼしているのかさらなる研究が進められています。
虫垂を切ると大腸がんのリスクが上がる?
前途のように、近年、虫垂に関して驚くべき研究結果が発表されました。
台湾の研究で、虫垂炎で手術をした人、7万人以上と、手術をしてない人およそ30万人を14年近く調査。すると、手術をした人は、その後1年半~3年半のあいだ、手術をしてない人に比べ、2.1倍ほど大腸がんになりやすいという結果が出たのです。
ただし、大腸がんになるリスクが上がったのは、手術後3年半まで。
その後は、手術をした人としない人でリスクは変わらなくなりました。
そのため、昔のように「虫垂はいらない臓器だから、切るのがいちばん」ではなく、医療現場では「薬で治るようであれば、無理してとらなくてもいい」という選択をすることもあるといいます。
虫垂炎の原因とは?
かつて「すいかの種を食べると盲腸になる」などとよくいわれていましたが、これは迷信に近い俗説。子供が食べすぎるのを戒めるために作られた説だともいわれています。
じつは、虫垂炎の原因はもっと別にあったのです。
盲腸(虫垂炎)になったときのための「手術」と「薬」のメリット・デメリット
カチカチに固まった便が虫垂炎の原因に!
虫垂炎の原因でもっとも多いと考えられているのが「ふん石」。
これは便が石のように硬くなったもののことです。
盲腸と虫垂は直径3ミリメートルほどの小さな穴でつながっています。
ここに、このふん石が詰まると穴がふさがり、虫垂にうみがたまって炎症が起き、激痛を引き起こす場合があるのです。
ふん石以外にも魚の骨や入れ歯、乳歯など、消化液で消化されないようなものを飲み込むと、穴に詰まって、まれに虫垂炎を発症することもあります。
ただし、多くの場合は便によって排出されるため、過度な心配は不要です。
虫垂炎が軽い場合は治療の希望を聞かれることも。
虫垂炎は重症化すると、虫垂が破れてうみがお腹に広がり、腹膜炎など、命に係わる事態に発展することも。激しい痛みを感じたら、すぐに病院に行き、医師の指示のもと治療を受けてください。
治療方法は大きくわけると「手術で虫垂を切除する」「薬で炎症を抑える」という2つがあげられます。
炎症が悪化して、うみがたくさんたまっているような場合は手術、症状が比較的軽ければ投薬といったように、状況に応じて医師が判断します。
ただし、それほど重症でない場合は、手術か薬かの希望を聞かれる場合もあります。
聞かれた際に慌てず希望を伝えられるよう、それぞれの治療のポイントを知っておきましょう。
治療後は大腸にやさしい生活をおくることが大切。暴飲暴食を避け、バランスの良い健康的な食生活を心掛けることが大切です。
また、手術後の大腸がんのリスクが心配な人は、年に1度は大腸がん検診を受けましょう。
手術で治療する場合のメリットとデメリット
手術で虫垂を切れば、二度と虫垂炎になることはありません。ですが、術後3年半のあいだ、大腸がんのリスクが約2.1倍になるという報告があります。
薬で治療する場合のメリットとデメリット
投薬治療は、虫垂を切らずに済みます。ただし、再発リスクがあり、10~35%の人はふたたび虫垂炎を発症することがわかっています。
虫垂炎の早期発見ポイント
虫垂炎の経験者373人にアンケート調査を行ったところ、半数近くが「お腹の中の痛みが移動するような感覚があった」と回答しました。これは、虫垂に鈍い神経と鋭い神経が通っており、2つの神経が時間差で痛みを感知するためです。
まず、お腹全体に痛みを感じる。時間の経過とともに、右下の腹部に痛みを感じる。
腸内環境を整えることが、盲腸(虫垂炎)の予防につながる可能性も。
虫垂炎の原因の多くは、ふん石(便が硬くなったもの)が虫垂をふさいでしまうこと。
とすると、虫垂炎は便秘とも関係があるのでしょうか。
「便秘を解消するには、食物繊維をとるといい」といわれていますが、じつは、食物繊維をとると虫垂炎になりにくいという研究があります。
現状、研究段階ではありますが、腸内環境が良い状態であれば、虫垂炎の予防につながると期待されています。
食物繊維をとる際は水溶性食物繊維がおすすめ。腸内細菌を元気に育てるのに役立つとさされています。また、発酵食品に多くの栄養素を取り入れることができるため、腸内環境を整える効果が期待できます。