抗酸化、抗ウイルスなど機能性を持つ食品成分の可能性
第18回ファンクショナルフード学会学術集会より。
講演では食品成分の機能性について、老化予防や新型コロナウイルスの感染・重症化対策、抗酸化能に関する研究成果が発表された。
その中から3つのトピックを紹介する。
「老化促進モデルマウス(SAM)を用いた老化防止に資する食品成分の探索(信州大学学術研究院農学系 片山茂氏」
機能性食品の開発では、活性成分の同定、採用機序の解明に加え、ヒト対象の介入試験が求められるが、その前段階として適切なモデル動物を用いた研究が必要不可欠である。
老化促進モデルマウス(SAM)は、自然交配で確立された老化促進と短寿命を呈するモデル動物として広く利用されていて、ヒトと類似した多因子発症機序を有する。
➀そば
そばの認知機能の低下抑制作用をSAMPを用いて研究した。
そばは、縄文時代から救荒作物として含有され、高たんぱく、高アミノ酸スコア、ルチンを高含有する。
製粉により、全層粉、表層粉、中層粉、内層粉と分類され、全層粉は炭水化物が多い。
試験品として、全層粉、表層粉、韃靼そば粉、ルチン、小麦粉、米粉を用いて、バーンズ迷路試験の結果、全層粉が最も効果を示した。情動記憶の評価試験でも、全層粉が良い結果を示した。
海馬のBDNP陽性細胞数も全層粉が最も高かった。
なぜ、全層粉で効果が高いのかを検証する為に盲腸内細菌叢を解析したところ、ムリバキュラ科ガ特徴であり、これはアミロペクチンから、高分岐環状デキストリンを産生することからこれが寄与していると考えられた。
また、酪酸を産生しており、酪酸はBDNF産生を促進することが知られている。
その結果、神経保護と記憶形成に寄与するものと考えられる。
➁ケール
次に、SAMP1を用いて、ケールの皮脂老化予防作用を調べた。
用いたケールはグルコラファニンを高含有(従来の30~120倍)する品種改良ケールで、結果、外観の老化進行を遅らせ、表皮の厚み、真皮の厚み、コラーゲン量も通常のケールに比べ高かった。
皮脂中の遺伝子発現解析でも、弾力性繊維生産関連因子、コラーゲン、エラスチン合成因子が高かった。グルコラファニンは、生体ではスルフォラファンに変換され、活性酸素を低下させる抗酸化作用によるものと考えられた。
COVID-19と機能性表示食品成分 感染リスク低減・重症化予防・後遺症改善・ワクチン効果における臨床的意義(森ノ宮医療大学 蒲原氏)
現在、COVID-19感染予防や継承者の重症化予防、治療、回復者の後遺症対策として有用な介入方法の検証が進められている。
COVID-19対策としての生体防御機構として、以下の対策がある。
1、原因ウイルス暴露への対策
物理的な生体防御として、マスク着用、こまめな手洗い、3密回避等)
2、生体防御機構の維持を介したCOVID-19対策。
食事、睡眠等適切な生活習慣による免疫機能の維持。
重症化予防として、肥満、高血圧、糖尿病等に対する機能性表示食品成分の活用がある。
目的は、COVID-19対策としての機能性表示食品成分の臨床的意義に関する文献レビューである。
スペインでのCOVID-19患者を対象とした臨床試験では、高用量ビタミンDと標準治療の併用により、ICU入室リスクが顕著に減少した。
日本においても、COVID-19重症例で亜鉛が低調であると示されている。
COVID-19対策としての亜鉛の意義として、亜鉛の抗ウイルス作用(IFN産生促進)、亜鉛不足のCOVID-19患者は予後の不良等が挙げられる。
また、COVID-19対策としてプロバイオティクスの意義として、腸管粘膜免疫での分泌型IgA産生促進、短鎖脂肪酸によるバリア機能と抗炎症作用などが挙げられる。
➂ハチミツの抗酸化作用の評価(東京工科大学応用生物学部 関洋子氏)
ミツバチの好きな花としてレンゲ、アカシア、トチ、ミカン、そば等がある。ハチミツはケルセチン、カフェ酸などを含み、抗酸化作用を有する。今回、抗酸化能の評価はDPPHラジカル消去法と鉄還元能を採用した。
対象試料は、アカシア、トチ、ケンポナシ、レンゲ、ソバ、百貨密で、ポリフェノール量は、ソバが最も高く、アカシアが最も低く、密源で含有量に差が見られた。
DPPHラジカル消去活性は、トチ、ソバ、百貨密が高い値を示し、アカシアは低値で、必ずしもポリフェノール値と相関がないので、抗酸化作用は他の成分の影響もあると考えられた。
鉄還元能は、ソバが高値でアカシアが低値であったので、ポリフェノール含有と相関が見られた。DPPHラジカル消去活性は、他のパラメータと相関しなかったが、鉄還元能は相関した。
しかし、両者は、ポリフェノールの種類に影響されるという報告もあり、抗酸化能は、総合的に評価したほうが良いと考える。
ヘルスライフビジネスより引用
フラボノイドの豊富な果物の摂取と脳卒中発症リスクとの関連
国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクトより引用
女性ではフラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いグループで、脳卒中の発症リスクが低かった
私たちは、いろいろな生活習慣とがん・脳卒中・循環器疾患などの病気との関係を明らかにし、日本人の生活習慣病予防や健康寿命の延伸に役立てるための研究を行っています。
調査対象
平成7年(1995年)に岩手県二戸、秋田県横手、長野県佐久、沖縄県中部、平成10年(1998年)に茨城県水戸、新潟県長岡、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県宮古の計9保健所(呼称は2019年現在)管内にお住まいだった44~76歳(アンケート回答時)の男女のうち、循環器疾患及びがんの既往がなく、
食事アンケート調査に回答した87,177人(男性39,843人、女性47,334人)の方々を平均約13.1年間追跡した調査にもとづいて、フラボノイドの豊富な果物の摂取と脳卒中発症リスクとの関連を調べた結果を論文発表しましたので紹介します(Br J Nutr. 2021年1月ウェブ先行公開)。
フラボノイドの力
フラボノイドの豊富な果物には、抗酸化作用や抗炎症作用があり、血清脂質代謝や血小板機能を改善させることや、血圧値を下げることなどが報告されています。
しかしこれまでに、フラボノイドの豊富な果物の摂取と脳卒中に関する疫学研究は限られていました。そこで、本研究では、食事アンケート調査から、フラボノイドの豊富な果物の摂取と脳卒中発症リスクとの関連を検討することを目的としました。
今回の研究
今回の研究では、フラボノイドの量が100g当たり50 mg以上の果物をフラボノイドの豊富な果物と定義し、りんご・なし、柑橘類(みかん、その他の柑橘類)、いちご、ぶとうが含まれます。
フラボノイドの豊富な果物と、個々の果物の摂取量を算出し、摂取量の少ないものから人数が均等になるように、5つのグループに分け、摂取量が最も少ないグループを基準として、その他のグループのその後の脳卒中の発症リスクを検討しました。
解析にあたっては、年齢、地域、体格、喫煙、飲酒、職業、高血圧治療、高コレステロール血症治療、糖尿病の既往、余暇の運動頻度、魚介類、赤肉、加工肉、コーヒー、野菜類、大豆食品、緑茶、総エネルギー摂取量を統計的に調整し、グループによるこれらの影響をできるだけ取り除きました。
研究結果
女性ではフラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いグループで、脳卒中の発症リスクが低かった
本研究では、追跡期間中に4,091人の脳卒中(脳梗塞が2,557人、脳出血が1,516人、分類不明が18人)発症しました。
女性では、フラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いほど、脳卒中の発症リスクが低く、最も少ないグループ(中央値19.0g/日)と比べて、最も多いグループ(中央値329.7g/日)では、脳卒中の発症リスクが30%低い結果となりました。
個々の果物との関連では、りんご・なしは関連がみられませんでしたが、柑橘類(みかん、その他の柑橘類)、いちご、ぶとうでは、脳卒中の発症リスク低下との関連がみられました。
男性では、フラボノイドの豊富な果物の摂取と脳卒中発症との関連はみられませんでした。脳卒中の病型別(脳梗塞、脳出血)においても、男女とも脳卒中全体と同様の結果がみられました。
考察
今回の研究により、日本人の女性において、フラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いほど、脳卒中の発症リスクが低下する可能性が示唆されました。
フラボノイドを豊富に含む果物の摂取が脳卒中発症リスクの低下と関連した理由として、フラボノイドによる抗酸化作用と抗炎症作用、動脈硬化の抑制や血圧降下作用などが考えられます。
海外
海外で行われた複数の研究をまとめたメタアナリシスでは、りんご・なしの摂取と脳卒中のリスク低下との関連が報告されていますが、本研究では関連がみられませんでした。
この理由として、フラボノイドはりんご・なしの皮に多く含まれており、日本ではりんご・なしの皮をむいて食べることが多いことから、関連がみられなったことが考えられます。
柑橘類と脳卒中の発症リスク低下との関連については、先行研究と同様の結果でした。本研究では、いちごの摂取量が多いと脳卒中発症リスク低下との関連がみられましたが、先行研究では関連がみられなかった理由として、先行研究では、脳卒中の症例数が少なかったことが考えられました。
また、本研究では、女性ではぶどうの摂取量が多いと脳卒中の発症リスク低下と関連がみられましたが、先行研究では関連がないことが報告されており、今回の結果を確認するためには今後も研究が必要です。
今後について
本研究は、先行研究と比較して最も大規模な研究ですが、1回の食事アンケート調査から摂取量を算出しており、追跡中の摂取量の変化について考慮できていないことなどが限界点としてあげられます。
また、フラボノイドの豊富な果物の摂取は健康的な生活習慣と関連しているため、喫煙や飲酒などの生活習慣を統計学的に調整しましたが、調整されていない他の生活習慣の影響を受けているかもしれません。
フラボノイドの豊富な果物と脳卒中の罹患リスクとの関連については、研究も少なく、結果が一致していないことから、今後もさらなる研究の蓄積が必要です。