大人の発達障害 ASDについて

昭和大学 教授 岩波 昭 東京大学医学部卒業。専門は精神生理学、特に発達障害の診断・治療   「きょうの健康」より引用

こだわりと孤立。ASDの特徴と対策

ASDは発達障害の1つ。割合は人口の1%程度

ASDは発達障害の1つで、日本語では自閉スペクトラム症といいます。「自閉症」や「アスペルガー症候群」、「高機能自閉症」をまとめてASDといいます。成人の1%程度がASDだとされています。

ASDの人には2つの特徴があります。1つ目はコミニケションが苦手で、人との距離をうまくとるのが難しいことです。表情や言葉から相手の気持ちを読み取ったり、その場の雰囲気を察知したりすることが難しい。相手の都合や立場を考えずに行動することがある。

2つ目は、特定の物事に強いこだわりを持つことです。趣味をはじめとして、何かをするときの順序やルールなど、特定の物事に強いこだわりをもったり、我を忘れてのめりこんだりすることがある。

こだわりの強さゆえに孤立することも。

ASDの人のこだわりの強さ自体は、悪いことではありません。特定の趣味に没頭し、充実した生活を送っている人もいます。ただ、こだわりが強いゆえに、自分の方針や考えを変えることが難しいという面もあります。

そのため、職場では「融通が利かない」「協調性がない」と見られ、孤立してしまうことがあるのです。

音や光を苦痛に感じる人も多い

ASDの人にみられるほかの特徴として、音や光、においなどに過敏になるという点も挙げられます。職場で仕事をしているときに、「周囲の物音がうるさくて耐えられない」「窓から入る光がまぶしくてつらい」などと訴えることがあります。

こだわりの強さへの対策

自分の感情を点数化して新しい見方を見つける。

  • 誰も机を整理しない → 怒り5点 → 整理する余裕がないのかも
  • 会社支給のパソコンが使いにくい → 怒り4点 →自宅のと違うからどうしようもないかも

日々のなかで怒りを感じたことをノートに記し、10点満点中、何点なのかをつけてみる。あとで少し冷静になって読み返すと、「そこまで怒ることではないのかもしれない」などと新しい考え方ができるきっかけになる。

苦手なコミニケションへの対策

当事者どうしで悩みを打ち明けながら、コミニケションのコツを身につける。

グループ療法で、コミニケションのコツを学ぶ

日頃の悩みを打ち明けたり、「1回試してみて、相手がけげんな表情をしたらやめる」などコミニケションの工夫をASDの当事者どうしで話し合う。医師の言葉よりも、同じ当事者の言葉の方が心に響いて、受け入れやすいこともあるようです。孤立感が和らいで、人に相談したり助けを求めやすくなるという利点もあります。

周囲ができるサポートとは

変えようとしても、できないから悩む。

発達障害は病気ではなく、生まれつきの特性です。ASDは「コミニケションが苦手」「こだわりが強い」などの特性があります。

こうした特性から仕事でトラブルが起こることは少なくありません。そのため、職場や家庭などで、周囲の人が戸惑うケースも多く見られます。しかし、発達障害による特性は、本人の努力で変えることはできません。変えることができながゆえに、本人も苦しんでいます。

まずは、周囲の人が、発達障害の特性を正しく理解することが、サポートの第一歩になります。

非難は自信を奪ってしまう。

発達障害の特性からトラブルが起こったとき、周囲はつい「なぜ?」と問いただしたり、非難したりしてしまういがちです。しかし、本人もその理由がわからないため答えることは困難です。ASDの人に「話し合う気がないよね」「空気読めないね」などと言っても解決につながらず、本人の自信が失われるばかりです。

周囲の配慮

指示は明確にする

冗談や比喩などのあいまいな表現は、伝わらないことが多い。締め切り日時や作業範囲など、できるだけ具体的に指示する。

あるASDの方のケース:異性の上司に面談で「なんでもいいから話して」と言われた際に、性的な悩みを相談してしまった。「(仕事のことなら)何でも」という意図がわからなかったでのです。また、はがきにシールを貼るように指示されたときも、位置について具体的な目安がなく、混乱したといいます。

急な変更は避ける

急な変更に対して、戸惑いやすく、受け入れにくいため、指示の急な変更はなるべくしないようにする。

環境を改善する

音に敏感なら大声で話しかけない。光に敏感ならサングラスを使用を勧めたり、机の配置にも配慮したりする。

家庭でできること

  • あいさつをする、人に私生活を深く聞かないなど、人付き合いの基本的なルールを伝える。
  • 相手の気持ちを害するような物言いがあったら指摘して、やめるように言う。

特性を生かせる仕事もある

ASDの人は「細部まで目が届く」「数学的・理論的思考が得意」などの特性があります。こうした特性は、経理やプログラマー、研究職などで生かせるでしょう。一方、人とのやり取りが多い営業などの仕事にはあまり向いていません。職場では、本人の特性を生かせる配属を検討するといいでしょう。

また、目にしたものを映像として記憶することができる「映像記憶」は、ASDの人に多いことが知られています。発達障害のある人は特別な才能があることがあります。

発達障害と障害者手帳

発達障害で初診日から6ヶ月以上経過している人は、「精神障害者保健福祉手帳」の交付対象となる。この手帳があると、住民税・所得税の一部控除やさまざまな福祉サービスが受けられるほか、障害者雇用の適用対象にもなる。家族や医療機関関係者が代理で申請することもできる。

発達障害と遺伝的要因

発達障害と遺伝的要因は一定程度関連があるとされており、一卵性双生児のうち一人が発達障害だと、もう一人も発達障害である確率は70%程度という報告もあります。一般的な兄弟姉妹だと20%程度。

しかし、発達障害に関係する遺伝子は数多くあります。どんな人でもその遺伝子のいくつかを持っている可能性があり、特性が強いか弱いかの個人差にすぎないともいえます。

親の病気や生活習慣と子供の発達障害に関係に関する研究もありますが、はっきりしないことも多くあります。

発達障害と育て方は関係ない

発達障害は生まれながらの特性であり、育て方が原因ではありません。愛情不足や不適切なしつけのせいというのは大きな誤解。ただ、本人が周囲の助けを借りながらも、自力で問題を解決していくことは、自信を育て、生きやすさにつながります。

悩みを聞くだけではなく、就労支援も行う「発達障害者支援センター」もご参考までに。

発達障害の方のサポート
  • 発達障害専門の就労移行支援【atGPジョブトレ 発達障害コース】
  • 発達障害サポーター’sスクール公式サイト
  • 「大人の発達障害」についてのその他の記事は下記ご参考までにどうぞ。